今週初め、建築事務所にお勤めの荒川さんが来訪しました。
私が坂倉時代に担当した札幌の「五番舘西武」の資料を見せてほしいというものです。
五番舘西武は、私にとって社会人最初の物件であり、現場で大変苦労した思い出深い建築です。
この建物は、札幌駅前に建つ新館と仲通りを挟んだ旧館によって構成された百貨店です。その後、新館はロフト館となり、建物全体の名称は札幌西武と変わりました。
(表現の間違いがありましたらすぐ訂正させていただきます)
高校までを札幌で過ごした荒川さんは、五番舘をよく利用していたそうです。高校のときロフト館のトイレを利用したら、レンガの大階段を発見。この建物にこ
んな場所があったなんて、と感動したそうです。それ以来、お気に入りの場所として、館内の本屋で買った本を読んだり、時間をつぶしたりする場所になったそ
うです。

(上)オープン当時のスパイラルステップ
このレンガの大階段は、オープン当初、スパイラルステップと呼び、仲通りから各階売場へアクセスする、アメニティの高い空間として位置づけていました。設計者の思惑どうり、若者たちのデートスポットにもなっていました。
それがロフト館になったころからでしょうか、店内の模様替えの度に、売場動線から外れていきお客様が利用されない空間になっていったようです。荒川さんが驚いたのも無理はありません。
現在、横浜に住む荒川さんが帰郷したとき、札幌駅に降り立って「帰ってきた」と実感できる建物が五番舘西武なのだそうです。
その五番舘西武(現・札幌西武)は、今年の9月で閉店をしました。建物ごと売却予定のようです。荒川さんは、今後の利用形態が今の建物に似つかわしくないもの、例えば、看板だらけの量販店などに変わっていくことをとても心配しています。
「この建物を札幌らしいと思うのは僕だけなのかも知れないですけど」荒川さんは続けます。
「建築を大学で勉強していくうちに、五番舘はテーマパークのようなハリボテ建築とは違うことを感じるようになりました。どこでその違いが出てくるのか、純
粋に、まず知りたいんです。建物のことを理解したうえで、ふさわしい形で残す提案をしたい。僕のアクションで、どうにかなるものでもないかも知れません
が。。」
荒川さんのお話を聞いて、当時の担当者だった私としては、感激するやら懐かしいやらで、微力ながらも応援させていただくことを約束しました。 (白崎泰弘)


(上)駅前に建つロフト館
(下)イルミネーションを施した旧館。こちらは今年9月に閉店。
(上下とも、荒川さん撮影)
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